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子どもが馬と出会い「楽しかった!」の裏側で起こっていること、幸せの身体の土台を培うこと(「ポケマル親子地方留学2022冬」の受け入れを終えて)

コラム

2022年12月下旬に、ポケマル親子地方留学の子どもたちの受け入れをしました。

ポケマル親子地方留学とは、県外の親子が岩手に数日間滞在して、親はワーケンションで仕事などをしながら、子どもたちは農家などの生産者さんを訪れて、自然の中で過ごすというプログラムです。

地方留学詳細 - こども食育クラブ

ご参加いただいた保護者の方々向けに、お送りしたメッセージをこちらに掲載いたします。

なぜ、このようなメッセージを書こうと思ったのか。それは、三陸駒舎に一緒に来ていただいた親御さんから、
「現地に行って、どんな体験ができたか分かって良かった。
でも、子どもの話だけだったら、『馬に乗れて楽しかった!』という感じだけだったかも」
という話をいただいたのがきっかけです。

下方のメッセージにも書きましたが、
ポケマル親子地方留学に参加していた皆さんは、一つの大きな家族のようになっていて、都市と地方をかき混ぜるだけではなく、家族同士も混ざり合っていました。核家族化が進む中で、このような場はとても貴重です。
また、親子地方留学とのポケマル(産地直送のオンライン・マルシェ)を組み合わせることで、岩手の体験と日常の暮らしをつなぎ合わせて、子どもの学びを発展できるという相乗効果が生まれます。

ポケマルを運営する雨風太陽の代表の高橋博之さんは、「都市と地方をかき混ぜる」ということを掲げて、ポケマルを立ち上げました。オンライン・マルシェからリアルの親子地方留学などへと広がり、それぞれの取り組みが生態系の様につながっています。

今回の親子地方留学の受け入れを通して、三陸駒舎の取り組みも、まだまだ可能性を広げることが出来ると気付かされました。

前置きが長くなりましたが、以下から保護者向けのメッセージとなります。

宮沢賢治の精神が息づく岩手で幸せに生きる土台となる身体の感応性がひらかれる

子どもの「楽しかった!」の裏側に何があったのか?

子どもたちの感想は、およそ「馬に乗れて、楽しかった!」という感じだったのではないでしょうか。
表面上の言葉だけを受けて「楽しい体験が出来て良かったね」で留まるのはもったいない。
実は、その楽しかったの裏側では、子どもたちが幸せに生きる土台となる学びが展開されていました。その土台を確かなものにするために、楽しかったの裏側での起こっていたことを解き明かします。
岩手で、子どもたちの身体に撒かれたタネを各家庭で大事に育てていくヒントになると思います。

三陸駒舎は、いわゆる乗馬クラブのような場所ではなく、馬との暮らしの時間を過ごす、ちょっと変わった場所です。
馬と過ごす中で、自分の中で沸き起こる感覚というのは、今までに経験したことのない体験から、言葉にすることがとても難しいのです。
なので、「(馬と過ごす中で、何か色々な感覚が沸き起こったけど)楽しかった!」というのは、ある意味、本質的な感想かもしれません。

子どもたちの「楽しかった」の裏側を解き明かす視点は、いくつかあるのですが、今回は身体感覚を中心にすくい上げていきます。
少々長くなりますが、お付き合いいただければ幸いです。

馬との一体感

今回、様々なカタチで馬と関わりました。馬たちの部屋の掃除をしたり、エサを準備して与えたり、ブラッシングなどお手入れしたり、馬場に放した馬を追いかけて走らせたり、最後は、馬に乗って山と川に挟まれた里山を散策したりしました。
短い時間でしたが、子どもたちは、馬との暮らしの流れに入り、最初は流されている感じ〈受動態〉でしたが、馬と共に身体を動かしているうちに、その流れを共に生み出す一員になりはじめ〈能動態〉、最後は流れそのものになりました。〈中動態〉
その場と一体となっていく感覚はとても心地よいものです。その一体感が「楽しい!」の源泉です。

流れそのものなっていく有り様を中動態と言います。中動態とは、受動でもなく能動でもなく、同じ世界中に入って内から湧き上がる力に身を任せる感じです。アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソンは、生態心理学を切り拓き、知覚研究に革命をもたらしました。中動態は、その中で提唱したアフォーダンスと重なります。「何かに対して、考えて、判断して、動く」のではなく、「何かに対して、(考えて、判断する前に)反応して動く」というものです。
身体の感応性が高まっている状態とも言えます。その感応性は、これらの時代を生き抜く上で、ますます必要不可欠な要素となります。

なぜ、身体の感応性が大事なのか

親であれば誰もが、
– 子どもたちには、幸せな大人になって欲しい。
– 他者を幸せにできる人になって欲しい。
と願っています。
それが、自分にとって得か/損か、コスパが良いのか/悪いのか。そんなことを考えて動いているようでは、他者にも自身にも幸いは訪れません。
近くに困っている人がいたら損得抜きに、ぱっと手を差し伸べることが出来る人が、自分も他者も幸せに出来る人ではないでしょうか。身体の感応性が高ければ、この人を助けたいという力が自然に沸き起こります。

人はひとりでは幸せに生きていけません。身体が反応して他者と一体となることで、喜びを感じられるのは、生存戦略として私たちのゲノムに埋め込まれているからです。近年の研究では、社会とのつながりが少ないと、健康リスクが高く、タバコによる影響よりも高いという報告もあります。
また、ヤフーCSOの安宅和人氏はハーバード・ビジネス・レビュー論文「知性の核心は知覚にある」で、これから訪れるAIやビッグデータが席巻する時代を迎えるにあたって、感覚・感性を含む知覚の重要性を指摘しています。

私たちは、目先の知識や学力などに目が向きがちですが、そのベースとなる感覚・感性が培われていなければ、その知識も正しく活かすことは出来ません。先行きが不確かな時代です。あれやこれやと表面上のスキルを身に付けても、10年後20年後にそのスキルが役立つかどうかは分かりません。
それよりも、身体の感応性は、不確かな時代を生き抜いていく際に、重要な土台となります。感覚・感性がしっかりと育てば、どうとでも幸せに生きていくことができます。

どこで身体の感応性がひらいたのか

この身体の感応性は、馬以外の存在でも培うことができます。今回の親子地方留学の中でも、その場と一体となった瞬間は数多くあったはずです。

今回、訪問した農家の皆さんも高い身体の感応性を持っています。彼らは、日々自然と共に暮らし、身体の感応性を活かしながら、植物や土の声を聞き、仕事をしています。農家の皆さんの暮らし方・生き方に出会い、子どもたちも反応して、感応性がひらかれたのではないでしょうか。

親御さん自身も、今回の地方留学の中で、その場の一体感に包まれる経験をされています。
僕も短い時間のお付き合いでしたが、来訪時や懇親会に参加した時に、参加しているそれぞれの家族が、ごちゃ混ぜになって、一つの大きな家族になっていると感じました。お互いの感応性が反応し合って、場全体が一つになっている状態です。
僕より、長い時間を共に過ごした皆さんなら、なおのこと、そのような感覚があったのでないでしょうか。僕の娘も懇親会の向かう車内で「知らない家族同士が、一緒になっていいよね。私もあそこに入りたい」と話していました。

感応性を持続させるために

元の都市の暮らしに帰れば、子どもたちも今まで通りに戻ってしまうかもしれません。どうしたら、身体の感応性を持続できるのか?
家での親御さんの意識的な関わりがカギを握ります。関わりのアイデアをいくつか挙げてみます。

例えば、食べることを通して。
頭で忘れてしまっても、身体は覚えています。
訪れた農家さんの農作物を取り寄せて食べたり、
滞在中に頂いた料理を再現してみる。
その時の思い出を語り合えば、食事をする中で、身体に刻まれた記憶が呼び起こされます。

例えば、親同士や親子で語り合うことを通して。
親子地方留学の何が良かったのか。翻って、良かったことの反面から、自分たちの普段の生活に何が欠けていたのか。
訪問した農家や共に過ごした参加家族の暮らし方や子どもの接し方から、学べるものはなかったか。

例えば、家庭の中だけでは、難しいと思うのであれば、
外の力を借りることを通して。
今回の親子地方留学で出会った家族と食事会でもしながら、地方留学のことを振り返る。
自然環境が豊かな場所に出掛けて、自然の力を借りて、身体の感応性をひらいてみる。
絵本や童話や映画、動画などコンテンツを共に楽しみ、その感想を語り合う。

身体の感応性を持続する工夫は、子どもが育つだけではなく、家族全体の幸せにもつながります。
子どもたちの方が身体の感応性に対してひらかれていて、逆に私たち大人が彼らの在り方から学ぶものが多いかもしれません。

おわりに 宮沢賢治と自然との対話

三陸駒舎の活動の冒頭では、宮沢賢治さんの童話を寸劇にしました。その中でも紹介しましたが、宮沢賢治さんは、次のように書き記しています。
「これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。」(『注文の多い料理店』序 より)
寸劇の題材にした「狼森と笊森、盗森」では、身体の感応性を持った人々が森と対話をしながら、集落をひらいていく様子が描かれています。

現代の私たちも自然と対話できるのか?
三陸駒舎に来た子どもたちは、人間の言葉は使っていませんが、確かに馬と通じ合うことが出来たという感覚を抱いていました。最後には、乗馬して里山を散策する中で、周りの自然と感応し合い、その自然と溶け合うように一体となりました。
他の訪問先でも、自然と対話できる農家の皆さんの身体を通じて、子どもたちにも、その回路がひらかれたはずです。

岩手には、宮沢賢治さんが童話や詩などで伝えてくれる、人と自然が一体となった世界が今も息づいています。
身体の感応性が閉じてしまったときには、岩手の自然やその自然と共に生きる人々に会いに来て下さい。きっと、皆さんの身体に力を与えてくれます。

各写真は、ポケマル親子地方留学を主催する(株)雨風太陽さんからご提供いただきました。

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