三陸駒舎の黍原が関わる「体験デザインのためのゼミ」に関連する公開ワークショップをオンラインで開催します。
「体験デザインのためのゼミ」では、人々に体験を提供するという意味ですべての人々を「体験デザイナー」だと見做し、社会学者の宮台真司さんが展開する社会学とその周辺の学問を読み解きながら、実践のための知を伝承することを目的としています。
月1回行っている「体験デザインのためのゼミ」への参加者募集も兼ねて実施します。基本このゼミへの入会は紹介制ですが、今回のワークショップへの参加をもって紹介ということにしたいと思います。
主に普段体験デザインに取り組んでおられる方、キャンプ実践(森の学校、組織キャンプ)のノウハウ、『体験』そのものについての理解、宮台さんが示す論理の実装と実践など、より実践寄りの事例や気づきの共有が期待できます。
現ゼミメンバーはどなたも、様々なフィールドで実践がある方々です。
これからのキャンプカウンセリング-若者の『自意識の檻』にどう向き合えばいいのか? 阪田晃一(キャンプディレクター)
日時:2024年7月11日(木)19時〜21時 @オンライン
※2024年6月実施の“THE 12TH JAPAN OUTDOOR LEADERSHIP CONFERENCE”にて実施予定だったプログラムです。同カンファレンス申込の方は無料でご参加いただけます。
体験デザインとは?
「体験デザイン」とは社会学者の宮台真司さんが提唱する、主に育ち上がりにおける体験の重要性を認識し上で、どのような体験を「デザイン」すればいいのかに着目した言葉です。
高度経済成長前まで、共同体的性格の中で育ってきた人々は、育ち上がりにおいて原生自然との直接的な関わりと共同体の中での人とのそれなりの関わりを持っていました。つまりそれらを体験していました。高度消費社会になり、共同体は失われ、原生自然からも間接化された今、僕たちは育ち上がりの環境をある意味においてデザインする必要があります。つまりそれが「体験デザイン」です。
組織キャンプ
日本では1920年から、社会システムを駆動するための人材を、体験的学習によって育むための教育を行ってきました。ラルフ・ウォルト・エマソンの影響を受けたジョン・デューイが提唱した「Learing by doing(成すことによって学べ)」は、それまでの伝統的教育では、知識の伝達は試みられているが「力の継承」は行われていないことに着目しました。
内から湧き起こる力を惹起できるかどうか。それがジョン・デューイらの取り組み、プラグマティズムの問題意識です。日本ではジョン・デューイに直接指示した小林弥太郎(東京YMCA委員)と鈴木英吉(東京YMCA主事)によって主に組織キャンプに実装されました。
ワークショップ「若者の『自意識の檻』にどう向き合えばいいのか?」(抄録)
はじめに
筆者は国内で古くから組織キャンプを展開するYMCAにてキャンプディレクターを続けてきた。特に神戸YMCAは1950年より、香川県小豆郡に組織キャンプ場を構え、主に青少年育成を行ってきた。筆者は2006年より同地でプログラムディレクターとしてキャリアをスタートし、2018年からキャンプディレクターとして組織キャンプ場の運営とプログラム企画、実施をしている。
コロナ後の若者とキャンプカウンセラー
国内では早くから、キャンプカウンセラーはボランティアが担ってきたが、組織キャンプ発祥の地である北米では、有償の職業であることがほとんどで、労働市場として機能している。
神戸YMCAでは、キャンプカウンセラーは主にボランティアで従事する大学生が担う。キャンプカウンセラーの下位にカウンセラー見習い(Leader or Counselor in Training)、さらにその下位にジュニアリーダーを設置し、指導者への段階的な道筋を立てている。
YMCAのみならず、一般的に組織キャンプには若者が多く関わっている。幼くは幼児からデイキャンプなどのキャンププログラムに参加し、小中高とより長期のダイナミックなキャンプに参加していく。そこから指導者への進んでいく若者が一定数いて、キャンプ業界が成り立っている。
しかしおそらく多くのディレクターが実感しているように、コロナ後とコロナ前では若者のある種の質が変化した。そしてそれらは正確にはそれはコロナ前から始まっていたと言える。
若者の体験質
筆者は2023年同カンファレンスで『体験の深みがどこから来るのか?』と題し、脳科学における「クオリア(体験質)」の観点からワークショップを行った。ある質感を伴った記憶が、その後の人間の人生を決定していく。筆者は近年、若者の変化に対応する形で、クオリアの変化がカウンセリングの質に影響していると仮定し、指導者の育成方法を変化させてきた。
教授法やリーダーシップ理論はスキルとして学ぶことができる。しかしメタ認知であるクオリア(ある種の世界観)は、非認知的な活動全般から形成される。
Kolb(2015)による体験学習理論でも、学習者の学びを最大化するための四段階の役割のうち、二つ目の「体験に対する考察を整理し知識へと結びつける役割=専門家(Expert)」においてクオリアが重要だとされる。
『自意識の檻』と最終目標の書き換え
「我々は自らに関わることができる存在である」とはハイデガーの言葉だ。「自意識過剰」とは自分に過度に意識が向いていることを指す。精神分析学は言葉による人間の世界体験を中心に据え、言葉の有限性からくる「割り切れなさ」の抑圧が不安を生み、神経症の症状を呈すると説明する。
生態に恒常性維持機能があるように、自意識にも自己を保とうとするホメオスタシスが働く。自己肯定感が低く、自己効力感も乏しい人間は「ダメな自分」を保とうとする。自意識に働きかけが生じても、ダメな自分を保つために認知を整合化させる。ダメな自分がダメなままでいられるよう最大限の努力をするのである。
一方で、キャンプカウンセラーはキャンパーの最終目標を書き換えるという重大な仕事を任されている。利他的でありながら自己を愛するというパラドックスを解決に向かわせるのである。その重大な仕事の遂行に、自意識の檻は強固に障害となって立ちはだかることは容易に想像できるであろう。
コロナ後の若者(キャンプ指導者)育成とは?
以上筆者が数年間の間に取り組んできたのは、自意識の檻から若者を解放し、各人の最終目標の書き換えが起こるように促すことであった。本ワークショップでは実際のケースワークを中心に若者の育成をテーマに参加者と議論する。
参考文献
- Meier, J.F. & Henderson, K.A. Camp Counseling -Leadership and Programing for the Organized Camp-.(2012).
- 高田三郎訳 アリストテレス ニコマコス倫理学
- 立木康介 ラカン 主体の精神分析的理論(2023)
- Kolb, David A.. Experiential Learning (2015)
もしよろしければ下記へのご参加もご検討ください。
体験デザインのためのゼミについて
「私たちに与えられるのは<世界>ではなく<世界体験>である」とは、社会学者の宮台真司さんの言葉です。ユングは象徴について研究しました。「神秘体験は神秘現象の存在を意味しない」とは、まさに世界は体験であることを示しています。
ラカンやフロイトに代表される精神分析学は、<世界体験>は言葉を通して与えられるしかなく、そこに言葉の有限性を認めます。ヨハネによる福音書の言葉『はじめに言葉ありき』とはまさに、言葉の前があったことを示し、言葉を使うしかない人間の有限性の中で、言葉の外に広がる世界を記述しようとする試みでした。
原生自然に対峙する活動や、原生自然に近いところで人間同士がある目的を持って過ごすような活動は、ある種のデザインされた体験を提供していることになります。しかし「言葉の有限性」という点からもわかるように、体験をすべてデザインすることは不可能です。
本ゼミでは、人々に体験を提供するという意味ですべての人々を「体験デザイナー」だと見做し、宮台さんが展開する社会学とその周辺の学問を読み解きながら、実践のための知を伝承することを目的としています。
運営にあたってのお願い
- ゼミは月1回行います。(基本オンラインにて実施)対面での実施も行いたいです。
- ゼミLINEに登録してください。LINEでの議論は、ゼミの内容を補完するものです。言葉の有限性を意識し、つまりそれでも人は「言葉で世界を体験するしかない」わけなので、言葉を徹底的に使えるようになるための訓練としてLINEでの議論を継続してください。
- 情報の流出にご注意ください。
- 月謝制とします。運営協力費としてお支払いをお願いします。
- ゼミ運営費の会計報告を年に一度行います。
- ゼミへの参加は紹介制とし、各人が質の維持にご協力ください。
主宰 阪田晃一 事務局 きびはら ゆたか(三陸駒舎)
体験デザインについての参考動画
【9/3LIVE配信・キャンプ部屋トーク】ゲスト:宮台真司「体験とは何か?体験デザインの実際と風の谷・旅芸人プロジェクトの全体像に迫る(予期理論と予測符号化理論)」
キャンプ部屋トークは、ちょうど一年ぶりに宮台さんをゲストにお迎えします。
以下当日に向けてのメモ。
体験とは何か?
体験デザインの実際を、予測符号化理論と予期理論の観点から全体像に迫る。
まず体験そのもの自体(体験すればいい)を目的化することは論外だとして、「体験」とはなんであるのか?
そして人の世界体験は言語構造に依存すること。
しかし体験それ自体は、言語構造に加工する前の状態があること。
「体験」→関係性次元の意味づけ→社会的次元の意味づけ(秩序)というように、体験をどのように加工するかは確率論であること。
体験後の過程
体験→言語化→意味づけ
その際方向性は二つ。1.力を得る意味づけ、2.力を失う意味づけ
体験以前の予期(予測)
言語的予期(高次脳機能)を良い意味で裏切り(サプライズ)、
言語以前的予期(低次脳機能)の鋭さに覚醒する
風の谷・旅芸人の目的は、高次脳機能の予測モデルに閉ざされた人々に、秩序づけの混乱というサプライズを起こし、低次脳機能を覚醒させ、精密な言語化によって、高次脳機能の予測モデルを「つまらない予測(悪い意味で期待を裏切る)」から「おもしろい予測(良い意味で期待を裏切る)」へと昇華させるチャンスを提供することだと言えます。
- キャンプティレクター 阪田晃一 X @koichisakata
- ゲスト:宮台真司(社会学者、映画批評家) X @miyadai
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